去る2月19日、国連人権理事会特別報告者4名による共同書簡が日本政府に対して送付され、朝鮮大学校生が支援緊急給付金(ESSHCS)(以下「給付金」)の対象外となっている件について強い懸念が表明されました。

 

「給付金」施策は今年3月に終了し、本学学生に対する差別問題も幕引きとなりつつあった中、共同書簡が送付されたことで、この問題が再び注目を集め各界から日本政府への批判の声が高まっています。

 

しかしながら、日本政府は共同書簡に対して「差別ではない」と回答(4月19日)しました。国際人権基準に照らして国連が示した懸念に、日本政府は真摯に向き合おうとしていません。

 

日本政府は共同書簡への回答において、「日本人・外国人を問わず、各種学校や専修学校における高等課程及び一般課程に在学する学生は対象となりません。したがって、ESSHCSが朝鮮大学校および外国人が主に受講する専修学校のいずれにも適用されないという事実は、いかなる場合でも、人種、民族、または出身国に基づく差別には当たりません。」と言及しています。

 

日本政府の回答における不当性と私たちの主張を以下に記します。

 

1.日本政府は、「給付金」の対象から本学学生を除外したのは、朝鮮大学校が各種学校だからであり、民族差別に当たらないと主張していますが、このような弁明は共同書簡において示された懸念に対する説明となっていません。

 

朝鮮大学校を制度の対象外としたことに関して共同書簡に示された懸念とは、以下のとおりです。

 

「このプログラムが1条校以外の学校に通う学生、特に朝鮮大学校のマイノリティの学生を差別していることを懸念する。このような排除は、これら学校の制度的自律性を損なう恐れがある。 マイノリティの学生にとって、これは、自らの国民的、民族的、文化的、言語的アイデンティティの促進を手助けする教育への彼ら/彼女らのアクセスをさらに危うくする。」

 

つまり、民族教育へのアクセスは、国際人権が保障する正当な権利であるが、共同書簡に示された懸念は、朝鮮大学校の学生がパンデミック下の困窮救済策から除外されることで、学業の継続が危ぶまれ、民族教育にアクセスする正当な権利が侵害されることに対して向けられています。

 

  朝鮮大学校の学生が制度の対象外となること自体が差別であるとする特別報告者の警告に対して、対象外となるのは各種学校のカテゴリーに含まれるためであり、国籍や民族を理由とする差別に当たらないという日本政府の回答は、まさに的外れというほかありません。

 

2.本学学生が「給付金」の対象外となるのは、施策の趣旨に照らしても不当です。

 

今般の「給付金」の趣旨は、特に家庭から自立した学生等のうち、新型コロナウイルスの影響によりアルバイト収入が減った学生等に対する「学びの継続」の支援にあります。

 

コロナ禍による経済的影響が、人々の属性を問わず等しく降りかかる以上、本施策は趣旨から想定されるすべての学生に適用されるべきであり、人種や民族、国籍はもちろん、教育機関のカテゴリーさえも給付対象の線引きの根拠となりえないはずです。

 

本学学生は、日本政府や自治体のすべての公的助成システムから排除されています。コロナパンデミック下において、人々の活動が制限され経済が委縮する中、押し寄せる困窮がもともと制度的に脆弱であった本学学生の学びの条件を揺るがしています。

 

昨年以来、困窮の度合いが日々深まる中、本学は日本の国会議員や人権活動家、メディアや市民のご協力を得ながら、日本の文部科学省に対し、本学学生を「給付金」の対象に含めるよう幾度も求めてきました。

 

しかし、日本政府は要請に応じず「各種学校は対象外」であるとの立場を頑なに堅持しています。周知のとおり国際人権法上は、基準それ自体が中立的な外観を有していても、その基準が適用される結果として特定の集団に重大な不利益が生じ、かつその不利益を正当化できない場合には、差別と認められます。

 

3.「各種学校」という理由で、本学学生を「給付金」の対象外とするのは、朝鮮大学校をはじめ朝鮮学校の歴史や実態にそぐわない不当な措置であり、速やかに是正されるべきです。

 

日本のある新聞は、特別報告者の共同書簡に関する報道において社説を掲載し、次のように指摘しています。

 

「海外の大学の日本校にも対象を広げながら、朝鮮大学校を除いたのはつじつまが合わない。(中略)政府は、高校授業料の無償化や幼児教育・保育の無償化でも朝鮮学校を除外してきた。それを踏まえれば、朝鮮大学校だけを狙った排除ではないという説明を素直に受け取れない。」(信濃毎日新聞、2021年6月23日社説)

 

今般の「給付金」施策は、1条校以外の学校や学校教育法の枠外にあり、設置形態が株式会社である日本語学校の留学生も対象となっています。(ただし、留学生に関しては学業成績に関する過剰要件が課されています。この件についての問題点は、共同書簡において指摘されたとおりです。)

 

「給付金」の適用対象が、問題を含みながらも従来に比べ広がりを見せる一方で、本学学生は依然、対象から完全に外されています。

 

  日本の学校制度は、1条校(正規校)、専修学校、各種学校の3種に分かれますが、専修学校は「外国人を専ら対象とするものを除く」とされているため、朝鮮大学校は高等教育課程の教育機関であるにもかかわらず、各種学校となっています。従って、事務処理要綱などに示された「給付金」の対象について、「専門学校(専修学校〔専門課程 上級学科を含む〕)」の次に「各種学校(高等教育課程)」を加えれば、問題は解決されるはずです。

 

かつて、朝鮮大学校は大学とは認められず、大学院の門戸が閉ざされていましたが、1998年、京都大学大学院が、各種学校である朝鮮大学校修了者の受験を認めました。これを受けて文部省(当時)は、翌1999年8月、学校教育法施行規則を改正しました。

 

また、「各種学校」という法的位置づけやカテゴリーにかかわらず、朝鮮大学校で行われる教育が、高等教育の実態を備えているとの社会的認知のもと、近年、本学卒業生に対して高等教育修了者に与えられる数々の資格が認められています。

 

朝鮮大学校が高等教育を行う大学であることは明らかです。

 

しかしながら、日本政府は、今般の共同書簡において朝鮮大学校学生に対する差別が指摘され後も、是正措置を講じていません。日本政府は、本学学生の除外問題を「各種学校」というカテゴリーの問題に回収しようとしていますが、いま問われているのは、国際人権法の保障する自らの言語、歴史、文化と民族的アイデンティイテイをはぐくむ民族教育に対する日本政府の立場です。

 

本来、権利とは、すべての人間に平等に付与されるものであって、国家の意図に即して権利享受の対象が恣意的に決定されてはならないはずです。

 

今年は日本において在日朝鮮人の中等教育が開始され75周年、朝鮮大学校の創立65周年を迎えます。在日朝鮮人の教育史は様々な難関を乗り越えて、自らの言語、歴史、文化と民族的アイデンティを回復するための闘いの歴史でした。朝鮮学校、朝鮮大学校で学ぶ生徒・学生たちは、いまだ克服されぬ差別や偏見の前においても自己を肯定し、また、他者を尊重することを学んでいます。

 

本学教職員・学生一同、日本政府に対し今般の共同書簡の趣旨を速やかに履行するよう強く求めます。

 

2021年9月6日

朝鮮大学校 国際交流委員会